評価方式
- 取引相場のない株式(非上場株式)
- 証券取引所に上場しておらず、市場価格のない株式。相続税・贈与税では、 財産評価基本通達に定める方法で評価します。
- 残余利益方式
- 今回の見直し案で原則的評価方式となる方式。直前期末の簿価純資産に、将来5年分の 「残余利益」の割引現在価値を加え、しんしゃく率を掛けて評価額を求めます。
- 残余利益モデル
- 企業価値評価の理論モデルのひとつで、企業価値を「自己資本 + 将来の残余利益の 割引現在価値」で表すもの。残余利益方式は、このモデルに税務上の評価としての 画一性・簡便性の観点から一定の修正を加えたものです。
- 類似業種比準方式
- 現行の評価方式のひとつ。同業種の上場会社の配当金額・利益金額・純資産価額と 比較して評価します。見直し案では、理論的な根拠や実証的な裏付けがないとして 廃止される前提です。
- 純資産価額方式
- 会社の資産を相続税評価額に洗い替え、負債等を差し引いて評価する方式。見直し後は 「特定の評価会社」に適用されます。
- 配当還元方式
- 同族株主以外の少数株主が取得した株式に適用される簡便な評価方式。存置の可否を 含めて第7回会議以降の論点であり、本ツールでは扱っていません。
- 規模区分(大会社・中会社・小会社)
- 現行制度で、従業員数・総資産価額・取引金額に応じて評価方式を使い分ける区分。 規模が大きい会社ほど相対的に評価額が安くなり、異なる規模区分の会社の株式を 取得した者の間で不公平が生じているとして、見直し案では廃止される前提です。
残余利益方式のしくみ
評価額 = { D'₀ + Σ[t=1..5] RIₜ ÷ (1+rₑ)t } × しんしゃく率
- 直前期末の純資産価額(D'₀)
- 課税時期の直前期末における法人税法上の簿価純資産。残余利益方式の出発点で、 利益積立金額と資本金等の額の合計です。
- 残余利益(RI)
- その期の利益から「株主が通常期待する収益」を差し引いた残り。 RIₜ = 年利益金額 − 前期末の純資産価額 × 還元率 で求めます。プラスであれば、株主の期待を上回る利益を上げていることを意味します。
- 還元率(rₑ)未確定
- 株主(出資者)が通常期待する収益率。株主資本コストとも呼ばれます。算出方法、 一律とすることの是非、上場と非上場の差の扱いは第7回会議以降の論点で、 資料の試算では8%が仮定されています。
- 株主資本コスト
- 前期末の純資産価額 × 還元率。企業が株主に払うべきコストにあたり、 これを上回った分が残余利益になります。
- しんしゃく率未確定
- 税務上の評価としての安全性を見込んで最後に掛ける率。還元率の考え方と併せて 第7回会議以降で議論される予定で、資料の試算では 0.7〜1.0 が示されています。
- クリーンサープラス関係
- 期首の自己資本から期末の自己資本への変化額が、株主との資本取引を除いて すべて損益計算書で説明されている関係。 前期末の純資産価額 + 当期純利益 − 配当 = 当期末の純資産価額 残余利益方式はこの関係を前提に各期の純資産価額を順次計算するため、ここがずれると 評価額もずれます。
- 加算期間
- 残余利益を足し合わせる期間。理論上は将来の無限期間分が必要ですが、予測が極めて 困難なため、資料では中期経営計画の年数も参考に「5年程度」としています。 期間が長いほど理論式に近づく一方、予測の精度は落ちるというトレード・オフがあります。
- ターミナルバリュー(TV)
- 予測期間より先(6年目以降)の残余利益の割引現在価値の合計。算定が困難であること、 残余利益は年数とともに逓減して0に近づくと考えられることから、資料では過小評価の 可能性を認めた上で加算しないこととしています。
- 年利益金額(C)
- 課税時期前5年の正常利益の年平均。各期の残余利益の計算に用います。
- 年配当金額(B)
- 課税時期前5年の配当金額の年平均。クリーンサープラス関係により、各期末の 純資産価額を求めるときに差し引きます。
法人税申告書の数値
見直し案では、適用する会計基準の違いによって評価額に差が生じないよう、すべての企業が 一定の統一基準で作成する法人税申告書をベースに計算することとしています。
- 別表四
- 「所得の金額の計算に関する明細書」。会計上の利益に税務調整を加えて所得金額を 求める表です。
- 別表五(一)
- 「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」。税務上の純資産の内訳を 表します。
- 利益積立金額
- 法人が稼得した所得のうち社内に留保している金額(別表五(一)31)。
- 資本金等の額
- 株主から出資を受けた金額(別表五(一)36)。
- 留保・社外流出
- 別表四の区分。留保は会社内に残る金額、社外流出は 配当や交際費等として外部に出る金額です。
- 未納法人税等
- 未納法人税及び未納地方法人税(別表五(一)27)、未納道府県民税(同 29)、 未納市町村民税(同 30)。利益積立金額の減算項目として、別表五(一)には △(マイナス)で記載されます。
- ④欄「差引翌期首現在」
- 別表五(一)の期末残高にあたる欄。翌期の申告書の①欄「期首現在」と同額になります。 直前期末の純資産価額は、直前期の申告書の④欄(=その翌期の申告書の①欄)を使います。
利益・純資産の調整
- 正常利益
- 過去の実績から非経常的な損益を取り除いた、将来も継続して生じると見込まれる利益。 残余利益方式の将来予測は、恣意的な予測値ではなく過去の実績に紐づけて行うため、 この正常利益を用います。
- 非経常的な損益
- 将来にわたって継続的に生じると見込まれない特別利益・特別損失。現行の配当還元方式で 特別配当・記念配当を除くのと同じ考え方です。
- オペレーティングリース
- 航空機・船舶等を対象とした取引。契約期間の初期に多額の減価償却費が生じて利益と 純資産が圧縮され、期間終了後の売却益で戻ります。契約全期間で見れば課税利益は 変わりませんが、一時点で評価する相続税では税負担に大きな差が生じるため、資料では リースがなかったものとした状態に引き直して評価します(利益だけでなく 純資産も修正します)。
- 役員退職慰労金
- 株式評価の直前期に多額に支払うことで利益を圧縮する例が見られるとして、正常利益の 計算では損金から控除して加算します。ただし支払済の退職金は会社に戻らず個人の 相続財産にもなるため、純資産の修正は行いません。
- 過大役員報酬未確定
- 代表者の親族である役員に対する報酬のうち、経営の対価を上回る部分。一定の割合を 会社の本来の利益とみなして加算する案ですが、その割合は示されていません。資料自身も 「適正な役員報酬を一律に決めることが妥当か」「法人税法の損金不算入規定により既に 調整済であることと整合しない」として慎重な検討が必要としています。
- 減損
-
資産の帳簿価額が課税時期における本来の価値を上回っている状態。次の2つを満たす
場合に限り、直前期末の純資産価額から控除できます。
- 一般に公正妥当と認められる会計基準に照らし減損が生じていることを決算公告等で明らかにしていること
- 控除額は、簿価が相続税評価額を上回る部分に限ること
- 完全支配関係
- 一の者(同族関係者を含む)が法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係。 グループ法人税制の対象になります。
- グループ法人税制
- 完全支配関係にある法人間の資産移転等について課税しない制度。これを利用して税負担なく 親会社の資産を子会社へ移し、評価額を圧縮するスキームが存在するため、見直し案では 完全支配関係にある子会社株式に限り、簿価ではなく適正な価額に洗い替えて 親会社の評価額に反映します。
特定の評価会社
- 特定の評価会社
-
残余利益方式によらず、純資産価額方式等で評価することが相当と認められる会社。
次の4類型に整理されています。
- 株式の価値の大半を保有資産の価値が占めると考えられる会社(資産管理会社)
- 残余利益方式での評価が技術上困難と認められる会社(組織再編直後・開業後5年未満・開業前)
- 継続企業の前提に疑義がある会社(休業中)
- 継続企業の前提を欠いている会社(清算中)
- 資産管理会社(資産保有特定会社)
- 単に資産の保有・管理をすることを主たる目的とすると認められる会社。資産の増殖能力を 考慮せず、個人で資産を保有する場合との均衡を図るため純資産価額で評価します。
- 特定資産
- 判定の対象となる投資目的等の資産。有価証券等、現に自ら使用していない不動産 (遊休不動産・第三者への賃貸不動産等)、ゴルフ会員権等、現金・預貯金その他これに 類する資産(保険積立金、同族関係者への貸付金等)、絵画・貴金属等。
- 資産保有型会社
- 特定資産の帳簿価額の合計額が、資産の帳簿価額の総額の70%以上である会社。
- 資産運用型会社
- 特定資産の運用収入が、総収入金額の75%以上である会社。
- 簿価による判定
- 現行制度では特定資産を相続税評価額に洗い替えた上で判定しますが、すべての評価会社で 洗替えが必要となり事務負担が大きいため、見直し案では帳簿価額のまま 判定します。
- 運転資金等未確定
- 現金・預貯金等のうち事業活動に必要な部分。特定資産から除く方向で検討されていますが、 その範囲は示されていません。
- 組織再編直後の会社
- 将来予測に必要な実績値が確認できないため純資産価額によります。ただし一定の合理的な 予測が可能な場合は残余利益方式によることが妥当とされています。
- 開業後5年未満の会社・開業前の会社
- 実績に基づく将来予測ができないため、事業を新たに開始した場合と同等の価値を算定する 考え方により純資産価額で評価します。
- 休業中の会社・清算中の会社
- 事業の継続を前提とした評価が適さないため、清算価値に準ずる純資産価額で評価します。
純資産価額方式の各項目
資料では純資産価額方式の位置付けを3つに整理し、特定の評価会社の区分に 応じて使い分けることが提案されています。位置付けによって、次の項目の控除の可否が 変わります。
| 項目 | 個人均衡型 | 持分型 | 清算価値型 |
|---|---|---|---|
| 退職給付引当金等 | 控除不可 | 控除可 | 控除可 |
| 含み益に対する法人税額等相当額 | 控除可 繰越損失を考慮しない |
控除不可 | 控除可 繰越損失を考慮する |
| みなし配当に係る源泉徴収税額 | 控除不可 | 控除不可 | 控除可 |
| 適用する会社 | 資産管理会社 | 組織再編直後 開業後5年未満 開業前 |
休業中 清算中 |
- 個人均衡型
- 個人事業者の財産評価との均衡を図るものとしての純資産価額方式。
- 持分型
- 株式が会社財産に対する持分としての性格を有することによる純資産価額方式。
- 清算価値型
- 清算価値としての純資産価額。会社を清算した場合の分配見込額に着目します。
- 退職給付引当金等
- 将来の退職給付に備えて計上する引当金。清算に際して負担すべき負債か、課税時期における 会社財産を精緻に把握するものか、個人事業者の債務控除と整合させるかによって、控除の 可否が分かれます。
- 含み益に対する法人税額等相当額
- 資産を相続税評価額に洗い替えたときに生じる含み益に対して、法人段階で課される税額に 相当する金額。現行の財産評価基本通達では37%とされていますが、見直し後の率は 未確定です。
- 繰越欠損金
- 過去の欠損金のうち翌期以降に繰り越されるもの。清算価値型では、含み益から繰越損失を 差し引いた金額に対して法人税額等相当額を計算します。
- みなし配当
- 出資の払戻し等の際に、利益の分配とみなして課税される部分。清算価値型では、その際の 源泉徴収税額を控除します。
その他
- 課税時期
- 相続または贈与により財産を取得した日。評価の基準となる時点です。
- 直前期
- 課税時期の直前に終了した事業年度。その期末の純資産価額が評価の出発点になります。
- 従業員持株会(固定価格制)
- 従業員への福利厚生を目的に設置され、株式の取得・精算を1株●円といった固定価格で 行う持株会。固定価格が評価額と大きく異なるとトラブルになるおそれがあるため、 一定の要件を満たす場合は固定価格で評価することが提案されています。
- プロラタ(比例配分)
- 従業員持株会株式を固定価格で評価する場合、企業価値総額から持株会株式の総額 (固定価格 × 株式数)を控除し、残額を持株会株式以外の株式数で除して1株当たりの 評価額を求める考え方。企業価値総額に対するバランスをとります。
- 頭打ち(純資産価額方式の選択適用)未確定
- 現行制度では、原則的評価方式による評価額が純資産価額を上回る場合、納税義務者の選択に より純資産価額で評価できます(実質的に純資産価額が上限になります)。見直し後もこれを 存置すべきかは、純資産価額方式の位置付けと併せて引き続き検討とされています。
出典: 国税庁「非上場株式の評価に関する専門家会議」第6回資料