2つの数字が評価額を決める
残余利益方式の算式には、会社の数字ではない「率」が2つ出てきます。
- 還元率 … 株主が期待する収益率。これが高いほど株主資本コストが 大きくなり、残余利益は小さくなります。
- しんしゃく率 … 最後に掛ける率。0.8なら評価額は2割引きになります。
この2つは、第6回会議の時点ではどちらも決まっていません。 第7回会議以降で議論されることになっています。
資料の試算で使われている「還元率8%」「しんしゃく率0.7〜1.0」は、 あくまで検討のための仮定値です。
なぜ決まっていないのか
還元率について、資料は次の論点を挙げています。
- どう算出するのか
- すべての会社で一律にしてよいのか
- 上場会社と非上場会社の差をどう考えるか(所有と経営が一致していることの考慮を含む)
非上場の中小企業では、株主と経営者が同一人物であることがほとんどです。 上場会社の株主のように「配当と値上がり益を期待して投資している」のとは立場が違います。 では期待収益率も違うはずで、では何%なのか。簡単に答えの出る問いではありません。
しんしゃく率についても、資料は「還元率の考え方と併せて議論いただきたい」として いるだけで、具体的な水準は示されていません。
試算が示す「誰の株価が上がるのか」
数字が決まっていなくても、資料の試算からは方向性が読み取れます。
国税庁は、令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告から無作為に抽出した 1,378社について、還元率8%・加算期間5年で試算しています。 現行の申告評価額の中央値を100としたときの水準は次のとおりです。
| 区分 | しんしゃく率1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 |
|---|---|---|---|---|
| 全体(1,378社) | +28.1% | +15.2% | +2.3% | ▲10.4% |
| 大会社(128社) | +114.7% | +93.2% | +71.7% | +50.3% |
| 中会社(820社) | +40.2% | +26.1% | +12.1% | ▲1.9% |
| 小会社(430社) | ▲1.9% | ▲12.0% | ▲21.8% | ▲31.6% |
傾向ははっきりしています。
- 小会社は下がる — しんしゃく率0.8で約2割減
- 大会社は上がる — しんしゃく率0.7でも5割増
これは、現行制度で「規模の大きな会社ほど相対的に評価額が安い」とされてきたことの 裏返しです。規模区分を廃止すれば、その分だけ大会社の評価額は上がります。 見直しの狙いがそこにある以上、当然の結果ともいえます。
評価額が下がる会社の割合
同じ試算で、現行の申告評価額以下になる会社の割合も示されています。
| 区分 | しんしゃく率1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 33.1% | 40.2% | 48.6% | 57.3% |
| 大会社 | 16.4% | 21.1% | 24.2% | 28.1% |
| 中会社 | 26.5% | 33.5% | 42.2% | 50.9% |
| 小会社 | 50.7% | 58.6% | 67.9% | 78.4% |
しんしゃく率0.8なら小会社の約7割、0.7なら約8割で評価額が下がります。 一方で大会社でも2〜3割の会社は下がります。 結局は個社の資産・収益の状況次第であり、規模だけで決まるわけではありません。
いま何ができるか
率が決まっていない以上、「見直し後の評価額はいくらになる」と確定的に言うことは できません。できるのは次のことです。
- 幅で把握しておく — しんしゃく率0.7と1.0で試算すれば、 評価額の振れ幅が分かります。
- 方向性を押さえておく — 自社が規模区分のどこに位置し、 収益性が高いか低いかで、上がる側か下がる側かの見当はつきます。
- 今後の会議を追う — 還元率としんしゃく率が示された時点で、 話は一気に具体的になります。
試算ツールでは還元率としんしゃく率を自由に変えられます。 同じ会社の数字で率だけを動かし、評価額がどう振れるかを確かめてみてください。
よくある質問
- 還元率が高いと、評価額は上がりますか、下がりますか。
- 下がります。還元率は「株主が期待する収益率」であり、これが高いほど差し引かれる 株主資本コストが大きくなって残余利益が小さくなるためです。利益も配当もない会社を 簿価純資産100として試算すると、還元率2%で91、5%で78、10%で62の水準になると 資料は示しています。
- しんしゃく率が0.7に決まれば、必ず評価額は下がりますか。
- いいえ。試算では、しんしゃく率0.7でも大会社の評価額は現行比で平均5割増となって います。しんしゃく率は最後に掛ける率にすぎず、その前段階の計算(純資産と残余利益)で 現行との差が生じるためです。
- 試算に使われた「大会社・中会社・小会社」は、見直し後も残りますか。
- 残りません。見直し案では会社の規模区分は廃止されます。試算で区分ごとに示されて いるのは、現行制度のどの区分に属していた会社が、見直しによってどう変わるかを 比較するためです。
- 還元率やしんしゃく率はいつ決まりますか。
- 第6回会議の資料では、第7回会議以降の想定論点とされているだけで、 時期は示されていません。
出典: 国税庁「非上場株式の評価に関する専門家会議」第6回資料 『評価方法の見直しに当たり検討すべき主な論点』(試算の対象は会計検査院及び国税庁が 実施した実態把握の対象申告データ4年間分、1,378社)